ディーゼルエンジン作動のための基本的な前提条件は、ディーゼル燃料の利用とその品質です。正常な作動を実現するには、燃料とエンジンが技術的に相互に適合していることが必要です。燃料は、いつどこででも比較的安い値段で問題なく供給されることが求められます。
MBディーゼルエンジンは、国内および国際的な要求事項(欧州では EN 590)に適合したディーゼル燃料用に設計されています。
標準ディーゼル燃料
高速で回転するディーゼルエンジンに長年全世界で使用されている標準ディーゼル燃料は、180 °C~360 °C付近で細分化される原油蒸留で精製装置に蓄積する炭化水素化合物です。この炭化水素化合物は非常にさまざまな分子構造を取ることがあるため、当然異なる特性を示します。
ディーゼル燃料の化学構造
四価カーボンCの一価水素Hとの化合の可能性はさまざまです。直線状および非常に多様な分岐状の鎖式構造ならびにさまざまな種類の環式構造があり、飽和または不飽和のどちらかの状態を取ります。また多重結合の数もさまざま種類があります。
アルカンは分子式CnH2n+2の鎖状飽和炭化水素です。これはパラフィンとも呼ばれ、ディーゼル燃料の大部分を形成しています。直鎖パラフィン(直線状)には優れた着火性と良好なスモーク生成特性がありますが、低温流動性は良くありません。密度が低いため、体積あたりの発熱値も低くなります。これに対してイソパラフィン(分岐状)は、着火性では劣りますが、低温特性に優れています。
アルケンは不飽和の、鎖状(直線状または分岐状)の最低でも二重結合のある炭化水素です。二重結合ではこれを分子式CnH2nで記述できます。オレフィンとも呼ばれるこの化合物はイソパラフィンの挙動に似ていますが、劣化により高分子異物の生成が発生する可能性があります。
シクロアルカンは分子式CnH2nの環状の、飽和炭化水素です。このシクロパラフィンまたはナフテンという名でもっと良く知られている化合物は、着火性は普通ですが、良好な低温流動性を備えています。密度と体積あたりの発熱値は平均レベルです。
芳香族化合物は環状に結合した二重結合を持つ環状の炭化水素です。着火性に劣り、スモーク特性は良くありません。低温流動性は普通です。密度と体積あたりの発熱値は高い値を取ります。
必要条件、特性、特性値 (DIN EN 590)
エンジン作動に関してディーゼル燃料が備えるべき必要な特性は、言葉で記述するか、または特性値を使用して詳しく定められます。この特性値は、通例は規格化されたテスト方式に基づくものであって有用ですが、ディーゼル燃料の取り扱いやエンジン内での燃焼にとって重要な品質基準を定義しようとすると、必ずしも常に十分であるとはいえません。限界値が決められているこれらの特性値を一定数使用することにより、最低限の必要条件の規格が定められます。
ディーゼル燃料の添加剤は品質向上のため必ず必要であり、燃料メーカ全体の責任です(これについてはシート119.0「燃料の添加剤および二次添加剤」を参照)。
着火性
着火性はディーゼル燃料の基本的特性の一つです。しかしながら、ガソリンエンジンにおいてアンチノック性が持つ意味に比べると、その重要性は幾分限定的なものです。技術的に言えば、着火性はアンチノック性の反対です。
着火性はセタン価で表されます。これはISO5165(CFRエンジン)またはDIN51773(BASF試験用エンジン)に基づき、規格化された試験用エンジンを使用して、厳密に決められたテスト条件下で測定されます。ディーゼル燃料のセタン価は、この条件下でディーゼル燃料の着火性が、セタン(ヘキサデカン)とヘプタメチルノナン(DIN 51773で使用されるここでは1-メチルナフタレン)の混合物に相当することを示しています。この方法の有用性は従来のディーゼル燃料で実証されています。しばしば使用される「セタン指数」はこれと異なり、密度や沸騰特性などの物理量から計算して決められた量です。この有用性には限界があります。
イグニッションラグ、すなわち噴射から自己着火までの時間が、ディーゼル燃料の着火性を測る一つの指標になります。着火性が良い、すなわちセタン価が高いとは、イグニッションラグが小さいことを意味します。これは、特に冷間始動でのエンジン始動時にとりわけ重要です。エンジン異音、スムーズランニングも着火性に依存します。DIN EN 590では最小セタン価51を規定しています。ただし良質の市販燃料のセタン価はもっと高くなります。
沸点範囲
ディーゼル燃料の沸点範囲は約180 °C~360 °Cの間にあり、これは世界中で相当な違いがあります。ディーゼルエンジンの走行特性は、ガソリンエンジンの場合と異なり、燃料の沸点範囲にはそれほど影響されません。しかしディーゼル燃料の成分のうち、沸点が約350 °Cを超えるものの比率が高くなり過ぎたり、あるいは沸点範囲の最終温度が380 °C、またはそれを超えて高くなり過ぎると、ひどく煤が排出されるようになります。沸点範囲を低温域へ拡げることは問題ありませんが、やはり限界はあります。
ヨーロッパのディーゼル燃料規格では以下の3つの限界値が認識されています。
• 250 °C以下、最大体積比65%の沸点
• 350 °C以下、最小体積比85%の沸点
• 最高360 °Cで、体積比95%の沸点
硫黄分
ディーゼル燃料の硫黄分は、原油の産地や精油所の脱硫能力によって異なり、規格/法令で限界値が定められています。
これはディーゼル燃料の実用技術上最も重要な特性値の一つなので、別途にシート136.0「ディーゼル燃料中の硫黄」を設けてあります。一般的に、硫黄分はできる限り少ないことが望まれます。
ここで論じられている硫黄分の低減は、近年ヨーロッパのみならず北米経済圏でも行われましたが、その結果ディーゼル燃料の潤滑性能の問題が発生してきました(潤滑性能の項目を参照)。つまり、脱硫プロセスで優れた潤滑特性を持つ燃料成分も低下した事実がありました。しかし燃料の潤滑性能は、適切な添加剤を加えることにより、十分に改善することが可能です。
低温特性
外気温度が低いときは、パラフィン結晶が生成され、ディーゼル燃料の流動性が低くなります。
一般に、ディーゼルエンジンの作動という点では、最適な炭化水素化合物には耐冷性がない、つまり温度がわずかに零度以下になっただけでも、結晶構造が生成されるという、重大な欠点があります。このパラフィン結晶は「合体」し、フューエルフィルタ、フューエルラインおよびディーゼルインジェクションシステムを詰まらせてしまい、その結果作動が不可能になります。頻繁に起こるのは、たとえスタータ始動はできても、やがてエンジンが停止してしまうという場合です。それによってエンジンが損傷されることはなく、暖めれば燃料は再び流動性を取り戻します。
こうした不具合を防ぐため、冬季は低温流動性のよい冬季用ディーゼル燃料が市販されています。優れた耐冷性は、メーカによって、高級基本燃料および流動性向上剤が入った専門的に適切な添加剤の結果として得られます。このディーゼル燃料は多くの場合、普通に発生する外気温度に適しています。
地域の気候に適合した冬期ディーゼル燃料のみを使用することを推奨します。
寒冷地を走行する場合は、現地に到着した際または事前に特定マーケットで一年を通して入手可能な冬期ディーゼル燃料を補給してください。一年を通して入手可能な冬期ディーゼル燃料に関する情報については、サービスステーション事業者にお問い合わせください。
メルセデス・ベンツ車両では、燃料をすばやく加熱するための措置が講じられています。それでもなお、極端な低温状態に対応できない不適切な燃料品質のオイルの場合、フィルターが詰まることがあります。
ディーゼル燃料の寒冷挙動を、特に混濁点(曇点)、凝固点(流動点)およびフィルタ性能 (CFPP) を使用して、数値的に把握することが試みられてきました。車両がどの温度まで確実に作動できるのかを、このパラメータから明確に述べることはできません。
今日では、「寒冷時目詰まり点」(EN 116) による「フィルタ性能の限界値」が一般に低温性能の評価に使用されます。このCFPP(寒冷時目詰まり点)と呼ばれる方法では、規定量の燃料が決まった時間内に一定のストレーナを通過できる、またはストレーナによって吸引できる最低の温度を決定します。ドイツの規格ではCFPPに以下の値が適用されます:
期間に関する注 | 流動特性 – CFPP – 値 | 注 |
4月15日~9月30日 | 0 °C | 夏用ディーゼル |
3月1日~4月14日または10月1日~11月15日 | 10 °C | 過渡期用製品 |
11月16日~2月28日(うるう年の場合は2月29日) | 20 °C | 冬用ディーゼル |
曇点がCFPPを上回っており、結晶堆積開始の温度を定義します。したがって、特に長期の寒冷影響の場合、原則的にCFPPを上回っている寒冷走行性の制限もあり得ます。
メルセデス・ベンツのすべての乗用車および商用車では、潤滑性能の欠如によって起こり得るディーゼルインジェクションシステムへのネガティブな作用を考慮し、耐寒性向上を目的とした灯油または航空タービン燃料の混合は許可されていません。ガソリン燃料の使用は、燃料の潤滑性能が低下するため、また安全上の理由から(引火点の低下)許可されていません。
かなり以前から添加剤(二次添加剤)として流動性向上剤が市販されています。通常は、後で追加することにより希望する作用を得ることはできません。したがって、十分に耐寒性のあるディーゼル燃料の補給は、車両の確実な冬季運転に不可欠です。
北極圏の気候帯用は最大の耐寒性を備えたポーラディーゼルがあります。これに対し、穏やかな気候用のディーゼル燃料は、耐冷性のほかに主に密度、粘度および沸点挙動でポーラディーゼルとは違います。
密度
欧州では15 °Cの場合、ディーゼル燃料の密度に関する値は820~845 kg/m3に定義されています。1999年末までは上限値860 kg/m3が許容されていました。世界中にはまだこのような高い値のマーケットが存在し、部分的には密度の既定値について設定値がまったくない場合すらあります。
燃料メーカおよび納品業者にとっては、密度の許容範囲の幅ができるだけ広い方が望ましいことになります。
燃料は体積で購入され、インジェクションポンプは体積で配分されますが、他方で発熱値は通常濃度上昇によって調整されるという背景を考えるとできる限り狭く指定した範囲が望ましいと言えます。インジェクションポンプを一定の状態に調整したとして、非常に軽い燃料(低濃度)で必要な出力を得る一方で、非常に重い燃料(高濃度)で排出ガス要求を守ることは不可能です。
粘度
粘度とはディーゼル燃料の粘りの強さを表し、ディーゼルインジェクションシステムにおける摩擦防止に関係し、燃焼室内での噴霧化に影響を及ぼします。欧州規格に従い、粘度は40 °Cで測定し、2.0~4.5 mm2/sになることができます。この広い許容幅は有利ですが、通常利用されません。
添加剤
エンジンおよびフューエルシステムの耐久性や清浄性のため、また良好な排ガス値を維持し、総じて優れた作動特性を得るために、正しく添加剤を入れたディーゼル燃料を使用することは必要な措置であり、また長い目で見れば経済的でもあります。
このような燃料の供給に関して言えば、個々のユーザーがたまたま立ち寄ったガソリンスタンドで、添加剤入り製品が販売されているかどうかにかかってきます。弊社が得た情報によれば、大きな会社が経営するスタンドではどこでも手に入ります。大きな業者と関連のない「自営」のスタンドでも、大抵は入手可能です。大規模特約店は双方の取引時に、添加剤の入った製品が納品されることに注意してください。
特に強調したいのは、燃料のコストがたとえわずか数パーセント高くなったとしても、弊社の計算によれば、補修およびメンテナンス費用が抑えられ、修理が必要になる回数も減少して費用が節減できるので、相殺できるどころか、かえって節約になります。適切に添加剤を加えた燃料を使用することにより、次の典型的な不具合を防ぐことができます。たとえばインジェクションノズルへのカーボンの堆積、フューエルシステム全般にわたっての摩耗や腐食による損傷などです。さらに常に良好な排ガス値を保てるので、環境への負荷が低減されます。
硫黄含有量を減らした燃料では、潤滑性能が低下するという問題を考えると、燃料に添加剤を加えることは一層重要な意味を持ってきます(「潤滑性能」の章を参照)。この観点からは、最適の添加剤を混合することはオプションではなくて、必須のことだと言えます。
添加剤の混合は、燃料の品質責任者として納品業者が行うことが定められています。二次的な追加剤(シート119.0を参照)は常に車両使用者自らの責任で使用します。その使用が車両および燃料納品業者の保証に悪影響を及ぼす場合があるためです。
貯蔵および積み替え
以下の注意事項は、弊社のユーザの中でも特にガソリンスタンドを自営するディーラを対象としています。
ディーゼル燃料は貴重なエネルギー源です。車両に使用する場合は、ユーザーの期待にこたえて支障なく使えるように、必ず所定の基本的技術規定を遵守します。
フューエルタンクは絶対に交互に使用しないでください。したがって、ディーゼル燃料とガソリンを交互に充填しないでください。必要に応じて両方の燃料を(最低でも)2個の明確に分離されたフューエルタンクに供給してください。これを守らない場合、各燃料が交互に他の燃料中に不純物として混入することになります。
特に、ディーゼル燃料を購入する頻度が少ないユーザーの場合、夏季および中間期に購入した燃料は、冬季用の燃料が納入される前に、可能な限り完全に消費することが求められます。
フロアタンクには水や他の汚れが入ってはなりません。これは冬季用のディーゼル燃料を充填する前には、特に注意します。それでも汚れがある場合は、タンクの清掃を実施してください。フロアタンクは一定の距離を点検する必要があります!
添加剤を含まない燃料から、添加剤を加えた燃料に供給を切り換える場合は、あらかじめ特に厳密に貯蔵タンクに汚れがないか注意することが必要です。車両のフューエルシステムの汚れを除去するために、添加剤入り燃料には洗剤が添加されています。それが貯蔵タンク内の汚染粒子を車両のフューエルシステムの中に取り込んでしまう可能性があり、そのためフィルタが早期に目詰まりしてしまうおそれがあります。
これらの規定を守らないとフューエルフィルタが早期に目詰まりしたり、冬季に走行不能のトラブルを引き起こすおそれがあります。
引火点/危険物等級
ディーゼル燃料の引火点は、ISO 2719に準拠した測定で55 °C以上でなければなりません。引火点は、ディーゼル燃料の蒸気が点火源の使用により引火可能な温度です。これはエンジン燃焼に意味を持ちませんが、ディーゼル燃料の安全な取り扱いに重要です。この定義により、ディーゼル燃料に容易な輸送条件が適用されます。
ガソリンがわずかでも混入していると、ディーゼル燃料の引火点は大幅に下がります。ディーゼル燃料の引火点はガソリンより高いですが、自己着火温度はディーゼル燃料のほうがガソリンより低いです。
純度
ディーゼル燃料には有機酸および固形添加物が混入してはならず、室温で透明でなければいけません。
腐食を防ぐため、水分含有量は200 mg/kg以下でなければなりません。摩耗を促進する有機金属化合物がディーゼル燃料中に含有されることがないように、灰分含有量の許容量が最大 0.01 重量百分率に定められました。
ディーゼル燃料のコークス化しやすい成分は、ノズルへのカーボンの堆積や、燃焼室内での大量の堆積物形成などの重大なエンジントラブルを招くおそれがあります。したがって、残留炭素は蒸留残余物の10%に制限されます。
潤滑性能
近年、環境保護の観点ですすめられた硫黄含有量の低減化により、ディーゼル燃料の潤滑性能が低下する問題が生じました。硫黄分除去のために不可欠な中間分留物の水素添加処理により、燃料中の天然の潤滑改善成分もともに取り除かれてしまうからです。
ディーゼル燃料内の硫黄分の低下後、以前はインジェクション装備品に発生する摩耗を防止するために、潤滑改善添加剤を加えることがどうしても必要でした。その間、この潤滑改善添加剤を加えることは、脂肪酸メチルエステル(「FAME」)を含むディーゼル燃料では必要なくなりました。FAME自体が潤滑改善効果を持っているからです。
潤滑性能は、EN 590で「HFRRテスト」(「高振動数往復装置(ハイフリクエンシレシプロケーティングリッグ)によるテスト」)の際に要請があり規制されました。このテストでは、球体をプレート上に置き、圧力下で球体を強制的に振動させます。このとき試験すべきディーゼル燃料を潤滑剤として使用するという方法です。このテストはISOテスト方法12156-1で説明されています。HFRRテストで最大許容される潤滑性能の限界値は、欧州については60 °Cで最大460 µmと規定されています。
この方法はこの分野で広く受け入れられてはいますが、テストの精度や説得力(つまりテストと実際との関連)に関してはまだ問題もあります。
FAME含有率
EN 590は、2009年の発行以来脂肪酸メチルエステル(「FAME」)の最大7%の体積比の混合剤を明確に許容してきました。これがディーゼル燃料の品質にマイナスの影響を与えてはいけません。つまりEN 590の要求は依然として守る必要があります。特に、欧州では混合にはFAMEに関するEN 14214の規定を満たしている品質のFAMEのみを使用しなければいけないことを遵守する必要があります。これに関するインフォメーションは、シート135.0「ディーゼル燃料としての脂肪酸メチルエステル (FAME)」を参照してください。
ディーゼル燃料内の微生物
フューエルタンク内の自己の水相形成により水分含有量が高い場合は、フューエルタンク内で微生物が成長するおそれがあります(ディーゼルオイルペスト)。長い停止期間によって微生物の侵入が促進されます。微生物の腐食性排出物のほかに、この場合フューエルシステムを塞ぐ可能性のある生物汚泥も発生します。
以下の症状は、車両またはフロアタンクが微生物により汚染されていることを示しています:
• 出力損失、フィルタのジェル状物質により、頻繁に燃料フィルタ交換を実行することが必要
• タンク内部の腐食の発生増大
その他
今まで述べてきた特性あるいは特性値は、ほとんどすべて相互に関連しあっています。それは特に密度、沸点範囲、粘度、引火点、低温特性および着火性に関して該当します 特性が変化すると、その他についても必然的に変化します。